有識者会議は、ご高齢となられた天皇のご公務の負担軽減等を図るため、どのようなことができるのか、専門家からの幅広い意見を聴取しつつ、検討を重ねてきた。この論点整理は、有識者会議におけるこれまでの議論で明らかとなった論点や課題を分かりやすく整理したものであり、これを公表することによって、国民の理解が深まることを期待するものである。
2、現行制度下での負担軽減
【現行制度の概要】
(1)国事行為について
・国事行為は、憲法に列挙されている国家機関としての行為。内閣の助言と承認により決定され、天皇に拒否権が認められない形式的・名目的な行為。
・法律・政令の公布、国会の召集、国務大臣の任免の認証、大使の信任状の認証、栄典の授与、外国の大使の接受などが該当する。
・国事行為の代理については、憲法に基づき、皇室典範が摂政について、国事行為の臨時代行に関する法律が委任について、その要件を規定。
・摂政は、天皇が「成年に達しないとき」のほか、「精神もしくは身体の重患または重大な事故により、」国事行為を「みずからすることができないとき」に、天皇の意思にかかわらず設置される法定代理。天皇に意思能力がない場合などを想定していることから、国事行為の全部が恒久的に代理されることも想定。
・委任は、「精神もしくは身体の疾患または事故があるとき」に国事行為を皇族に臨時に代行させる制度。天皇が意思を表明できる程度の疾病や外国訪問などの場合に、期間を限定して国事行為の全部または一部を行うことを想定。
(2)公的行為について
・自然人としての行為のうち、象徴としての地位に基づく公的なもの。
・憲法上の明文の根拠はなく、義務的に行われるものではない。
・天皇の意思に基づき行われるものであり、国民の期待なども勘案して行われるべきもの。個々の天皇の意思やその時代時代の国民の意識によって形成・確立される。
・象徴としての天皇の公的行為を他の者が事実上代行したとしても、象徴としての行為とはならない。
・地方事情ご視察、災害お見舞い、外国ご訪問、ご会見、宮中晩さんなどが該当する。
(3)その他の行為について
・自然人としての行為のうち、公的行為以外のもの。天皇の意思に基づき行われるもの。
・宮中祭祀(さいし)、神社ご参拝、御用邸ご滞在、大相撲ご覧、生物学ご研究などが該当する。
(1)運用による負担軽減
(1)国事行為の負担軽減
【積極的に進めるべきだとの意見】
○国事行為の一環として行われる儀式(栄典の親授式や信任状の奉呈式など)や国事行為に関連する儀式(認証官の認証式など)については、儀式を縮減するなどの見直しを行うとともに、皇族方に分担することなどにより、負担軽減が可能ではないか。
【課題】
○国事行為の一環として行われる儀式や関連する儀式は、国事行為であるご署名やご押印と密接な関係にあり、その見直しは困難なのではないか。
(2)公的行為の負担軽減
【積極的に進めるべきだとの意見】
○公的行為は、義務的に行われるものではないので、天皇の意思や国民の意識を踏まえたものでなければならないという制約はあるが、負担軽減を図るため縮小することを検討すべきではないか。
○天皇自身が行わなくても、内容によっては、皇族方が行っても意義が低下しないものもあると考えられるので、皇族方による分担を行うべきではないか。
【課題】
○ご公務の削減や皇族方による分担は既にできるものは実施してきており、これ以上の見直しは困難なのではないか。
(2)臨時代行制度を活用した負担軽減
【積極的に進めるべきだとの意見】
○国事行為の臨時代行制度は、天皇が高齢の場合にも適用することが可能であり、天皇の健康状態に応じて、積極的に活用することにより、ご公務の負担軽減を図ることが重要ではないか。
○昭和の時代に5件、平成になってから22件と多数の活用例があり、国民に自然に受け入れられており、円滑な実施が可能ではないか。
○象徴天皇としての必要最小限度のご公務は天皇が実施し、その他のご公務は臨時代行制度を活用して分担していくことで、象徴天皇としての威厳や尊厳、国民からの信頼を維持したままで、高齢の天皇のご公務を軽減することが可能となるのではないか。
○一部の事務だけの代行や、短期間の代行など柔軟な運用ができるため、お代替わりに備えて徐々にご公務を皇位継承者に分担していく手法として活用でき、円滑な引き継ぎに資するのではないか。
○その際、例えば、国事行為である国務大臣の任免の認証、栄典の授与、外国の大使の接受を委任した場合は、併せて、これに関連する認証式、勲章受章者などの拝謁、外国元首の接遇などの行事も代行に分担することで負担軽減が図られるのではないか。
【課題】
○臨時代行制度は、国事行為のための制度であり、今上陛下のご公務の負担のかなりの部分が公的行為であることを踏まえれば、国事行為の代理である臨時代行を設置したとしても、問題の解決にはならないのではないか。
○国事行為の代行をする受任者が公的行為を事実上行うことは考えられるが、あくまで受任者としての行為であり、象徴としての行為とはならないのではないか。
3、制度改正による負担軽減
(1)設置要件拡大による摂政設置について
○現行の摂政制度は、天皇に意思能力のない場合などにおける法定代理を規定したものであり、高齢であっても意思能力のある天皇には適用できない。
○摂政によることとする場合には、現行の摂政制度を見直し、高齢の場合にも摂政を設置できるように要件を緩和する必要がある。
【積極的に進めるべきだとの意見】
○退位には、強制退位や恣意(しい)的退位の問題、象徴や権威の二重性の問題などさまざまな問題があるとされている。退位ではなく摂政によることとすることが、退位の問題を回避でき、将来的にも安定的な皇位継承に資するのではないか。
○憲法や皇室典範において予定された制度であり、設置要件を緩和したとしても、退位によるよりも、他の制度を変更する必要はあまりないのではないか。
○憲法上、天皇は国事行為のみを行うこととされており、公的行為が行えなくなったとしても退位する必要はない。ご活動に支障があるのなら、憲法上予定されている代理である摂政の設置要件を緩和して摂政を設置することが最も適当なのではないか。(2017/01/23-19:23)